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研究内容

免疫応答は、病原体やがん細胞などの異物を排除し、感染症やがんの発症を防ぐ役割を果たしています。一方で、本来は異物に対して誘導される免疫応答が、誤って自己成分や栄養成分などに対して誘導されると、自己免疫疾患や生活習慣病などの発症につながります(例として、それぞれ関節リウマチや糖尿病などが挙げられます)。さらに、黄砂・PM2.5などの大気汚染物質や花粉・ダニに対して免疫応答が誘導されると、アレルギー疾患につながります。このように、免疫応答には私たちの身体を守る良い面と傷つける悪い面の二面性があり、様々な疾患の発症に深く関わっています。そのため、免疫応答の仕組みを正しく理解し、その働きを適切に制御する薬を開発することで、効果的に疾患を予防・治療できるようになります。本研究室では、以下のプロジェクトを中心に研究を進めています。

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1. ウイルス、細菌、がん細胞などの排除に関わる免疫応答の解明

免疫は、自然免疫と獲得免疫に分けられます。獲得免疫は、T細胞とB細胞が中心となり標的を定めて働く生体機能であり、重要な役割を果たすことが古くから知られています。一方で自然免疫は、概念のもととなった白血球マクロファージによる細菌の貪食が100年以上前に発見されて以降の長い間、「標的を定めずに異物を無造作に攻撃するだけの原始的な生体機能」と軽視されてきました。しかし、20世紀の後半にToll様受容体(TLR)が発見されると、自然免疫は「受容体によって異物を特異的に感知して攻撃する生体機能」であることが分かり、概念が覆りました。自然免疫機構は異物を感知すると、異物を排除するために免疫活性化因子の産生を速やかに誘導し、さらに獲得免疫機構を活性化する引き金としても働くことが明らかになったのです。現在では、生体防御の最前線において働く自然免疫は、獲得免疫と同様に、極めて重要な研究対象であると考えられています。本研究室では、免疫機構、特に自然免疫機構により誘導される生体応答である“免疫応答”に注目しています。

 

ミトコンドリア、ファゴソーム、小胞体などの細胞小器官(オルガネラ)は、細胞が多様な機能を発現するために必要です。自然免疫機構が異物を感知して免疫応答を起こすまでの過程にも、様々なオルガネラが関わっています。本研究室では、感染症やがんの発症を防ぐために免疫応答が誘導される際にオルガネラが果たす役割の解明を進めています。

 

また、細胞活動を支える別の機構として、特定のタンパク質を選択的に分解するユビキチン・プロテアソーム系や、損傷したオルガネラを除去するオートファジーなどの細胞内分解系があります。細胞内分解系は、自然免疫機構が異物を感知して免疫応答を起こすまでの過程にも関わっています。また、免疫活性化因子の成熟を促進するプロテアーゼや、免疫活性化因子のmRNA分解を誘導するヌクレアーゼなど、より直接的に免疫反応を制御する細胞内分解系もあります。本研究室では、免疫応答の制御において細胞内分解系が果たす役割の解明を進めています。

2. アレルギー疾患、自己免疫疾患、生活習慣病などの発症に関わる誤った免疫応答の解明

3. 免疫応答の制御を基盤とする治療薬の開発

身を守るために働く免疫応答が、制御が外れて非常に強く、あるいは不必要に長く誘導されると、かえって身体を傷つけてしまい、感染症やがんの発症につながる場合があります。また、免疫応答が誤って自己成分や栄養成分に対して誘導されると、自己免疫疾患、神経変性疾患、代謝内分泌疾患や循環器疾患の発症要因になります。さらに、黄砂や花粉のような環境由来の物質によるアレルギー疾患、あるいは抗癌剤などの治療薬の副作用が起きる要因にも、免疫応答が関わっていることが分かってきています。本研究室では、がん、自己免疫疾患、生活習慣病、アレルギー疾患などを対象に、免疫応答を介した発症メカニズムを解析しています。

免疫応答は、適切な強度で誘導されなかったり、誤って誘導されたりすると様々な疾患の発症につながります。よって、免疫応答が不十分な時にはそれを促進し、過剰な時にはそれを阻害することが、有効な治療戦略となります。本研究室では、化合物ライブラリースクリーニング(※)により免疫応答を制御する化合物を複数同定しており、各々の作用機序の解明や治癒効果の検証を進めています。また、前述の1や2の解析で同定した免疫活性化因子を標的とする化合物や抗体の探索も進めています。病原体やがん細胞の排除に働くワクチン、新たな抗炎症薬や抗アレルギー薬などの開発を目指し、他の研究機関や製薬企業と連携を図りながら、研究を進めています。

(※多数の化合物の中から、狙い通りの効果を発揮する化合物を選別すること)
 

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